ふだんの練習ではのびのび踊れているのに、発表会の本番になると急に動きが小さくなる。表情もかたく、体がぎゅっと縮こまって見える。ステージから降りてきたお子さんが「うまくできなかった」と落ち込んでいる姿に、どう声をかけていいか迷ったことはないでしょうか。
本番の緊張は、気持ちの問題だと思われがちです。けれど、緊張しているときに起きているのは、体がこわばるという、とても体に近い出来事でもあります。そこに目を向けると、声のかけ方も少し変わってきます。
緊張すると、体は勝手にかたくなる

人は不安を感じると、体に力が入ります。肩が上がり、呼吸が浅くなり、手足の動きが小さくなる。これは意志とは関係なく、体が自動的にやってしまう反応です。大人が大事な場面でガチガチになるのと、同じことがお子さんの体でも起きています。
力が入った状態では、練習でできていた動きも出しにくくなります。関節が自由に動ける範囲がせまくなり、いつものキレやのびが消えてしまう。「本番で急に下手になった」ように見えるのは、技術が落ちたのではなく、体がこわばってしまっただけ、ということが少なくありません。
つまり、緊張して動けないのは、心が弱いからでも練習が足りないからでもありません。体がこわばると動きにくくなるという、当たり前の仕組みが働いているだけなのです。ここを親が知っているだけで、かける言葉のトーンが変わります。
「緊張しないで」がむずかしい理由

本番前に「緊張しないで」「リラックスして」と声をかけたくなります。でも、緊張は消そうと意識するほど、かえって強くなることがあります。「力を抜かなきゃ」と思うほど、抜けない。これは気合いの問題ではなく、心と体のつくりによるものです。
大切なのは、緊張をゼロにすることではありません。ほどよい緊張は、むしろ集中を助けます。問題になるのは、緊張が体のこわばりに変わって、動きまで固まってしまうところです。だから目指したいのは「緊張しない」ことより、「緊張していても体がガチガチにならない」状態のほうです。
とはいえ、その状態を言葉で教えるのは、とても難しいものです。「力を抜いて」と言われて抜けるなら、誰も苦労しません。力みがほどけた状態は、頭で理解するより、体で一度知っておくほうが、本番でも戻ってきやすいのです。
力みがほどけた状態を、先に体で知っておく
ふだんの練習から、体の力が抜けて整った感覚を知っている子は、本番で緊張しても、その状態にすっと戻りやすくなります。「あの軽い感じ」を体が覚えていると、こわばりから抜け出す手がかりになるからです。
反対に、力が入った動き方しか知らないと、緊張したときに戻る場所を見つけにくいことがあります。だから本番でこわばると、そのまま最後まで固まってしまうこともあります。ふだんどんな体の状態で踊っているかが、本番の粘りを左右することがあります。
この「力がふっと抜けて、体が軽くなる状態」は、言葉で追いかけるほどつかみにくいものです。一度自分の体で味わってしまうと「これか」とわかる感覚に近く、そこからは本番でも思い出しやすくなります。整った状態を体で知ることは、緊張とのつき合い方そのものを変えていきます。
本番前、親ができるかかわり方

直前に技術的な指示を増やすと、お子さんの頭も体もかえって固くなります。「あそこを気をつけて」「ここを間違えないで」と注意が積み重なるほど、体はこわばりやすくなります。本番前は、できていないことより、ふだんの調子を思い出せる言葉のほうが助けになります。
「いつもどおりで大丈夫」「楽しんできてね」——こうした声かけには、体の力をふっとゆるめる働きがあります。うまくやらせようとするより、いつもの体の状態に戻してあげる。それが結果として、動きを取り戻す近道になることがあります。
そして本番のあとは、出来ばえより先に、舞台に立ったこと自体をそのまま受けとめてあげてください。緊張しながらもステージに立った経験は、それだけで次につながっていきます。
よくある質問
本番になると人が変わったように動けなくなります。練習不足でしょうか?
練習量とは別の問題であることが多いです。練習でできているなら、技術は身についています。本番で出せないのは、緊張で体がこわばって、身につけた動きにフタがかかっている状態です。数を増やすより、力みが抜けた体の状態を知っておくことが、本番での戻りやすさにつながります。
緊張しやすい性格は直したほうがいいですか?
直す必要はありません。緊張しやすいのは、それだけ真剣に向き合っている証でもあります。変えたいのは性格ではなく、緊張が体のこわばりに直結してしまう部分です。体がほどけた状態を知っておくと、同じ緊張でも動きが固まりにくくなっていきます。
本番で固まってしまうのは、お子さんのせいでも、練習が足りないからでもありません。緊張すると体はこわばる、その仕組みを知り、力みがほどけた状態を先に体で味わっておくことが、本番の粘りにつながっていきます。この「軽い感じ」は、頭で覚えるより体で知っておくほうが、本番でも戻ってきやすいものです。実際に体を動かして、力みがほどけた整った状態をその場で感じてもらう時間です。発表会前の緊張が気になる方は、お子さんと一度確かめてみてください。
緊張しても動ける体を体験する

